領域略称名: pH生物学

領域番号: 25A304

設定期間: 令和7(2025)年度~令和11(2029)年度

領域代表者: 荻沼 政之

所属機関: 国立研究開発法人 理化学研究所・開拓研究所(PRI)/生命機能科学研究センター・ チームリーダー

領域の概要

本研究領域では、生命活動に深く関わる根源的な化学的パラメータであるpHについて、その変動に対する生命の応答機構を徹底的に追究します。これまで、細胞質内pHは不変かつ安定的であるという誤った常識に支配されていたため、pH変動に対する生物応答の研究は世界的にも未開拓でした。本領域は、生命はpH変動に応答し適応するための根本的な仕組み(「pHストレス応答機構」)、さらにそれを「pHシグナル」として巧みに利用する仕組みを、進化の過程で獲得してきたというという新たな視点に立ち、多様な生物種と最先端のpH可視化・操作技術を駆使した学際的・統合的アプローチにより、その実態を明らかにします。これにより、従来のpHに関する概念を根本から覆すとともに、「pH応答生物学」という新たな学術領域の確立を目指します。

公募する内容、公募研究への期待等

生命が有するpHストレス応答機構およびpHシグナル機構の理解を深化させるとともに、それらの研究を支えるpH可視化・操作技術の革新を推進するため、本領域の計画研究では、多種多様な生物種を対象に解析を進めています。公募研究では、計画研究では網羅しきれない生物学的現象を優先し、pH生物学の本質に迫る根源的な課題を取り入れます。

研究対象は、受精から老化に至るまでのライフコース全体にわたる生命現象を視野に入れ、pHの役割を多角的に解明します。また、pH変動に伴うタンパク質構造の変化、生化学反応、無機構造の変容を予測・解析するシミュレーションなど、物理・化学的手法や数理学的アプローチの導入も歓迎し、pH応答生物学のさらなる深化を目指します。

[A01: pHストレス応答機構]

公募研究では、計画研究で対象外となっている呼吸機能や腎機能(これらに限定しません)をはじめとした、pHストレス応答に関連する生理・病態生理機構の解明、あるいは淡水・汽水環境に生息する生物やバクテリア、古細菌など、pH変動環境への適応が求められる生物種を扱った課題を積極的に取り上げます。

生体が持つpHストレスの感知・応答機構や、その破綻による疾患発症機構の解明など、現象論にとどまらず、分子レベルでの理解を目指した提案を期待します。

[A02: pHシグナル機構]

「シグナル因子としてのpH」の研究は、依然としてフロンティア領域にあります。したがって、私たちの想定を超える視点や分野からの研究提案を歓迎します。

受精・胚発生・成長・老化など、生命の全ライフコースを通じて、pHやそれに関連する化学物質を介したシグナル機構の解明を目指す研究、あるいは単細胞生物を含む多様な生物種におけるpH利用に関するユニークな生命現象の探究を期待しています。

[A03: pH可視化・操作技術の確立]

公募研究では、既存技術ではカバーしきれないpHの可視化・操作技術により、pH応答を定量的に解析し、その機構の実証を可能とする新たなアプローチの提案を歓迎します。

たとえば、蛍光タンパク質や蛍光プローブなどを用いた、細胞内の微細領域あるいは生体全体レベルでのリアルタイムなpH可視化技術の開発・応用、またpH変動に伴うタンパク質構造や生化学反応、無機構造の変化を予測するシミュレーションなどが該当します。

特に、計画研究メンバーには含まれていないAIや数理シミュレーションを駆使した解析に長けた研究者の参画を積極的に促し、領域全体の推進力をさらに強化することを目指しています。

公募する研究項目、応募上限額、採択目安件数

研究項目番号 研究項目名 応募上限額(単年度当たり) 採択目安件数
A01 pHストレス応答機構 420万円 16件
A02 pHシグナル機構
A03 pH可視化・操作技術の確立